『真のプロフェッショナルによる入魂の作品』
宮沢賢治『銀河鉄道の夜』の全文に、田原田鶴子さんの挿絵が25ページ
ほど(小さい挿絵は数点まとめて1ページ相当と数えて)入っています。
田原さんの絵は、適度に写実的でありながら、同時に極めて幻想的です。
原作のイメージを全く損なっていません。
描かれる風景は、植生は日本の東北地方のものなのに、建物はヨーロッパ風の
石造りだったりして、それがまた良い具合に調和しています。
岩手の自然を愛し、その自然の中にヨーロッパ風の空想の国を創り上げた賢治も、
きっとこのようなイメージをもっていたのではないか、と思わされます。
画家が賢治の原作を深く愛し、熟読し、取材などの下調べも入念に行った上で
仕事に取りかかったことが良くわかります。
手抜き一切無し。プロフェッショナルの入魂の作品です。
造本も紙質もしっかりしてます。
小説本文は縦書きで、レイアウトも絵と本文がちゃんと分離していて、
読みやすいです。
何より拍手を送りたいのは、総ルビになっているところです。
これで読者の年齢層がぐっと広がって、小学校低学年から読めるようになります。
まあ、低学年では、たとえ読めたとしても、この話の内容を本当に理解するのは
難しいでしょうが・・・
それでも、若い読者を本物に触れさせるのは大切です。
これだけのクオリティでこの値段というのは、はっきり言って安すぎです。
入魂の仕事をされた田原さんと出版社の方に、心から敬意を表します。
出版社への提案ですが、中身を見られるようにしてはいかがでしょうか。
表紙の画像でも絵のすばらしさの一部は伝わるでしょうが、
中の挿絵をもう何点か見られるようにすれば、
この本の魅力がより一層伝わると思います。