『きちんと書かれた一般向け入門書』
一般向けに書かれた統合失調症の入門書.後述する難点もあるが,総合すると非常によい本だと思う.説明は,基本的には,心理面ではなく脳の仕組みからの説得力に富むものであり,病気のメカニズム,患者の心理状態,外から見た様子,薬の効果・副作用・使い方,患者との接し方などに広く触れている.広くとっつきやすく書かれているだけではなく,大部分は誤解を招いたり誤魔化したりする書き方ではない,一般向け入門書にしては非常にしっかりした書き方である.特徴的な症状である具体的な妄想が生じる仕組みが自然なイメージを得やすいように説明されているのがよいし,誰彼構わず精神病扱いしたがる人が飛びつくような記述が見当たらないことにも好感を持てる.
唯一ダメなのは,表現にしても統計データの使い方にしても,「恐くない病気」という印象操作が散見されること.統合失調症が軽く見られて,「とりあえず自力で直そう」「単なる引き籠りだろう」「普通に生活できるようになったから安心」などという発想が生まれると大問題である.もっとも,本書を読むような人ならば安易な印象操作にひっかかることはないだろうが.