???著者は、チェコを代表する作家カレル・チャペック(1890-1938)。「ロボット」の名付け親としても知られる著者は、SF作品だけではなく、ユーモアと風刺を効かせた優れたエッセイも数多く残している。本国では1939年に出版された本書は、愛する動物に翻弄される飼い主の姿を描いた心温まるエッセイ集である。収録された26編には、著者自身と実兄のヨゼフによる挿し絵も添えられ、軽妙な文章をひきたたせている。 ???中でも著者の思い入れが感じられるのは、「ダーシェンカ、あるいは子犬の生活」の章である。階段を転げ落ち、靴を噛みちぎり、池にまで飛び込んでしまう、やんちゃな子犬ダーシェンカに「いまいましい」と悪態をつく毎日の著者。それでも、ダーシェンカがよその家にもらわれて行ったあと、「急に火が消えたようだ」と戸惑ってしまう。動物に対する著者のやさしい眼差しと、深い愛情がかいま見える場面だ。 ???そんなダーシェンカをはじめ、本書では母親のイリス、怪力で突拍子もない興味の持ち主のミンダなど、登場する動物たちが生き生きと描かれている。自然の声に導かれ、ダーシェンカが歩くお稽古をする場面などは、多くの動物好きの読者を楽しませるに違いない。また、人間と動物との愛と信頼をテーマにした「犬についてそれから、猫についてもう少し」の章も見逃せない。不信の育成によって生きる政治は蛮地の政治であると、ナチズム吹き荒れる当時の社会状勢を鋭く風刺している。(西山はな)
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