『あの頃の光景があります』
最近多いですよね。万人に媚を売らずに、徹底的に「世界」を追求した写真集が。この写真集
もそうした流れの中から生まれた作品の一つですが、例え読者層を絞りまくった題材であって
も敢えて流通させてみせる姿勢は、出版業が振るわない昨今、面白い試みだと思います。
またそうした個性豊かな作品に対して確実に応えてくれる読者は存在するわけで、大ホーム
ラン狙いばかりでなく、こつこつと読者層を集める目論見は正しい戦略の一つだと思います。
さて本書ですが、なんともしみじみとした光景が胸をうちます。文庫本「秘境駅」シリーズ
からのファンですが、旅行と言えば速達性と到着することばかりが目的となり、寄り道や目的
地までの時間の楽しさが失われつつある昨今の状況は嘆かわしい限りで、通過される存在で
しかなかった小駅に眼を向けた牛山氏の姿勢に共感することしきりです。また、時代の流れが
加速する一方の中、思い出の中の存在と化した「昭和」が今なお健在であることは嬉しいこと
で、鉄道マニアならずともどこか蘇ってくるものを感じないものでしょうか。
「秘境駅」に到達することをスコア化した、一部の鉄道ファンの姿勢にも疑問を感じざるを
得ませんが、願わくば一日でも長く、この写真集に収められた光景が存在し続けてほしいもの
です。この辺の心境は、平成生まれの方には理解しがたいかもしれませんけどね。