『熊と人間の不思議な交流』
最後のシーンで思わず、涙ぐんでしまいました。
「死」というのは、この地の表に住む全ての生き物が共有する運命ですが、その峻厳であり慄然とするほどの尊さは最近の殺伐とした資本主義によって軽んぜられているように思われます。しかし、現代人がどう捉えようが、「死」はその絶対的な力で人間を屈服させます。そこには「自然」の厳しさがあります。そうした厳しさをかみ分けて生き抜いてきた、なめとこ山の熊たちと熊取りの無骨な山男との「命のやり取り」を通した交流は、“互いの命を互いが狙う、生きるために”を基本とする非常に厳しいものでありながら、相手の置かれたこの世での立場を徹底的に思いやる深い洞察に満ちてます。熊取は、生きるために熊に銃口を向ける。或いは熊は相手の境涯を察してその銃弾を甘受してきたのかもしれません。しかし最後には銃弾を許さなかった。熊取の命を奪うことで身を守った。しかし、熊たちの男の亡骸への態度は「死」に対する畏敬の念と男の生き様に対する深い「ねぎらい」とを謙虚に表していました。あまりに澄んで美しい状況描写とともに。