『孤独なごんからの精一杯の贈り物』
子供の頃から幾度となく読んできた思い出深い1冊。この物語の結末は余りにも悲しい。けれどもそこに幾つかの望みを見出しうるならば、その1つは孤独な狐のごんが兵十に最後に届けた“贈り物”の中身です。自分の腕の中で冷たくなっていくごんの亡骸を抱きしめて兵十の嗚咽は続く。その涙は誤解に基づく過ちを悔いる他にもう1つごんが遺してくれた最も大切な贈り物?例え裏切られてもボクは信じ続ける、そうすればいつか解り合える日がくる、それまでボクは待っている?を今度こそは忘れないとの約束を受け止めての言葉でもあると思います。そしてもう1つの望み、それはごんが最愛の友達に抱かれて旅立ったということです。もしごんが他の村人によって最期を迎えたらこの物語は恐らくは成り立たなかった。子狐のごんは寂しかった。悪戯モノを装っていたけれど本当は誰かに振り向いて欲しかった。友達が欲しかった。それも自らと同じ定めに生きる友達に解って欲しいとの孤独な叫びの裏返しだった。だからごんは、やはり独りぽっちになってしまった兵十の許へせっせと栗や山の幸を届けたのではないのでしょうか。この物語全体を通じて流れている言葉を1つで表すならば“かけがえのないモノ(英訳するならONLY ONE若しくはREMENBERING)”が適切だと思う。その背景には“人間を信じ、赦すことの大切さ”が語られています。今もこの作品が読み継がれている背景には今の私達が暮らすこの時代が“人間など信じるな”との風潮も強く、人間の心だってお金で買うことが出来ると嘘ぶき“時代の寵児”的な人間すら生み出してしまった(彼は公判中である)、考えてみればゾッとする時代でもあり、多くの人は本能的にその危惧と後悔を感じているのかもしれない。何よりも黒井健の絵が柔らかな暖かみを醸しだし、作品の言葉に豊かな表情を与えている。同じ作者による『手ぶくろを買いに』、スーザン・バークレイの手になる『わすれられないおくりもの』などと共に、読み聞かせの場で何度でも採り上げたい作品です。