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『出会いと別れ。愛しさの行方』
　繊細。まず、この言葉が浮かびます。
　文章に書かれた子供の心の動きも、挿絵の鉛筆画の緻密でどこか寂しげなニュアンスも。

　夏。ある日の夕方、りんごの木の上にいる猫を見つけ、可愛がるようになるアニーとベン。とてもきれいな三毛猫で、どこからともなくやって来てはひとときを過ごしていく。でも、それは夏の間だけ逗留する、あるおばあさんの猫だったのです。
　アニーとベンは猫に“りんごひめ”と名をつけて、二人と一匹の交流が情感豊かに描かれるのですが、子供独特の、メーターが振り切れるくらいの心の揺れが実にうまく表現されていて、つい一瞬ベンをかばいたくなる場面もあります。

　なんということはないひと夏の物語。しかし、振り返ってみれば私たちだって、なんということはないいくつもの夏を経て大人になってしまったのだと感じます。
　事の大きさでなく、その深さによって子供はぐっと成長するんだなあと、考えさせられた一冊でした。